夜寝る前の炭水化物って太るの?
トレーニング後って夜遅くても炭水化物を摂った方が良いの?
こんな方に向けた記事です。
「夜寝る前に炭水化物を摂ると太る」「食べてからすぐ寝ると牛になる」。夜の炭水化物の摂取について、こんな言葉をよく耳にするかと思います。
テレビや雑誌などのメディアでも「夜の炭水化物は太る」というのが定説になっていると思います。
しかし、実は「夜の炭水化物が太りやすい」ということについて科学的根拠はないんです。
今回は夜の炭水化物が体に与える影響について、科学的根拠や論文などのエビデンスをもとに、わかりやすく解説いたします。
炭水化物の摂取時間と太りやすさは関係ない
そもそも科学的根拠がない
「夜に炭水化物を食べると太りやすい」というのは、実は科学的に証明されていません。
逆に「食事時間と太りやすさは関係ない」ということの方が研究によって証明されています。
2016年にロンドン大学キングスカレッジ研究チームは、イギリスの4~10歳の子供768人と11~18歳の子供852人、合計1620人の夕食のタイミングと体重の変化について調査しました。
- 20時以前に夕食を摂った子供
- 20時以降に夕食を摂った子供
上記2グループで体重の変化や栄養摂取量の違いを調べたところ、夕食の時間と体重の変化に関連性は見られなかったとの結論を出しています。
この調査から「夜に炭水化物を食べると太りやすい」という説に信憑性がないということがわかります。
太るかどうかを決めるのはカロリー収支
摂取カロリー(食べたもののカロリー)と消費カロリー(運動などで消費したカロリー)の差を「カロリー収支」といいます。基本的には、太る・痩せるというのは食事タイミングではなく、カロリー収支で決まります。
上記画像は食事管理における優先度のイメージになります。
下に行けば行くほど重要な要素で、土台の部分ができていなければ上の部分を工夫したところで結果は出ません。
このピラミッドを見ればわかるように、食事時間という要素はダイエットの食事管理の優先度としては低いものになります。
例えば、「夜は食べなくて朝と昼に4,000kcal食べる人」と「朝と昼は食べずに夜だけ2,000kcalのものを食べる人」を比較すると、太るのはどう考えても前者であることが想像できると思います。
夜に炭水化物を抜いてもカロリー収支がプラスであれば太りますし、夜に炭水化物を食べてもカロリー収支がマイナスであれば痩せます。
「いつ食べるか」ではなく「トータルでどれだけ食べるか」に焦点をあてて考えるようにしましょう。
夜食べると太るという論文もあるが…
「夜食べると太る」を肯定する論文もありますし、否定する論文もあります。
この「肯定する論文」と「否定する論文」を複数取り上げて内容を精査した研究があります。
両方の論文を精査した結果、「夜食べると太る」を肯定する論文は、食べる時間のみにフォーカスしており、1日の総摂取量を考慮していないことがわかっています。
1日の総摂取量を考慮していないということは、1日を通して食べすぎたから太ったのか、夜に食べたから太ったのかがわからないということになります。
こういった研究からも、食事時間と太りやすさは因果関係がないということがわかります。
なぜ夜の炭水化物が太ると言われているのか?
科学的に証明されていないのに、なんで夜の炭水化物が太るって言われてるの?
こう思われる方も多いと思います。
「夜に炭水化物を食べると太る」と説が唱えられた原因として考えられる3つの理由をそれぞれ解説していきます。
糖質は細胞に水分を引き込む性質があるから
個人的には、これが「炭水化物=太る」と勘違いされている一番の原因かと思います。
糖質には「細胞に水分を引き込む」性質があります。
糖質を摂ると、身体のエネルギー源となる「グリコーゲン」という物質に変換されます。
このグリコーゲンは水分と1:3の割合で結合し、細胞に吸収されます。(例えば100gのグリコーゲンであれば、300gの水分と結合し細胞に吸収される)
つまり、炭水化物を摂ると体内に水分を保持しやすくなります。
そのため、炭水化物を摂ると体内に水分が引き込まれ、逆に炭水化物を抜くと体から水分が出ていきます。
この水分の増減による体重の変動を「太った」「痩せた」と勘違いしてしまうことが、「炭水化物=太る」という誤解を生む原因となっています。
確かに夜に炭水化物を抜くと、翌朝の体重は減ります。しかし、それは脂肪が落ちたわけではなく、体内の水分が抜けて水分の重さ分軽くなっただけです。
また炭水化物を摂れば、再び体内に水分が引き込まれ、体重もすぐに元に戻ります。
この「体内に水分を引き込む」という特性が、夜に炭水化物を食べると太ると勘違いされている要因となっています。
BMAL1が夜から深夜にかけて増えるから
BMAL1(ビーマルワン)は脂肪の合成や分解を促進する、体内に存在するタンパク質の一種です。
このBMAL1は21時頃から増え始め、深夜2時頃に増殖のピークを迎えます。
BMAL1が多いときに食事をすると脂肪として蓄積されやすいと言われていたこともあり、これが「夜に食事をすると太る」という説につながっています。
しかし、2016年に発表された論文では「BMAL1の影響で糖質が脂肪として蓄積されやすいということは認められなかった」との見解が出ています。
この論文によると、BMAL1によって促進されるのは、糖質を材料とした脂肪合成ではなく、脂質を材料とした脂肪合成であるとのことです。
つまり、BMAL1の量と「炭水化物が脂肪に変わりやすいか」ということは関係ないということです。
ですので、このBMAL1による説も夜に炭水化物を食べると太るという根拠にはならないことがわかります。
起床時に比べ睡眠時の代謝は低いと言われているから
寝ている間は起床時よりも代謝が低いと考えられていることも、「夜に炭水化物を食べると太る」という説に繋がっていると思います。
しかし、起床時と睡眠時の代謝は変わらないことも過去の研究で明らかになっています。
1999年にアメリカで行われた実験では、69人の成人被験者を対象に起床時の代謝と睡眠時の代謝を比較し、代謝量の違いについて調査を行いました。
実験の結果、起床時の代謝と睡眠時の代謝にほとんど差がなかったとのことです。
起床時と睡眠時の代謝はほとんど変わらないということからも、やはり、「夜の炭水化物が太る」という説は信憑性が低いといえるでしょう。
トレーニング後は夜遅くてもしっかり炭水化物を摂ろう
トレーニング後は筋肉の細胞が糖質を取り込もうとする作用が高まり、筋肉も合成されようとしています。
要は、筋肉が栄養を欲しがっている状態になっています。
つまりトレーニング後に摂取した糖質は、筋肉に優先的に運ばれ、脂肪になりにくいということです。
これは科学的にも証明されており、多くのボディビルダーやスポーツ選手も運動後にはしっかりと炭水化物を摂取します。
糖質を摂ることで引き起こされる「インスリンの分泌」や「細胞内にグリコーゲンと水分が引き込まれる現象(バッグエンラージメント)」は筋肥大の引き金にもなりますので、トレーニング後の炭水化物の摂取は非常に重要であるといえます。
トレーニングの効果を無駄にしないためにも、トレーニング後は夜遅くてもしっかり炭水化物を摂りましょう。
まとめ
- 「夜の炭水化物が太る」は科学的根拠がない
- 太るかどうかを決めるのは食事時間ではなくカロリー収支
- 炭水化物を抜くと体重が減るのは身体の水分が抜けるから(脂肪が減るわけではない)
- BMAL1と炭水化物による脂肪の蓄積は関係ない
- 夜食べると太るという論文は実験条件が杜撰で信憑性なし
- トレーニング後の炭水化物は脂肪になりにくい
- 炭水化物の摂取は筋肥大の引き金になる
テレビや雑誌などのメディアが発信する情報は、「炭水化物=悪」という内容が非常に多いです。
炭水化物を抜けば確かに体重は落ちますが、それはほとんどが水分による体重減少です。
炭水化物は人間のエネルギーとして最も利用効率の良い栄養素であり、極端に制限するものではありません。
今回の記事に書いた通り、食事時間と太りやすさはほとんど関係ないものですので、夜にも適度に炭水化物を食べるようにしましょう。